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執筆者の写真なぎなた専門分科会 日本武道学会

スポーツ科学からみた心・技・体について考える-第7回世界なぎなた選手権大会から-

 本研究会(2019.8.31開催)は2部制で、前半は土屋裕睦講師に2020年に東京オリンピックに向けた様々な心理サポートの事例を紹介いただき、武道を通してスポーツ科学からみた心・技・体について論じていただきました。後半は引き続き土屋講師に「第7回世界なぎなた選手権大会」に出場した3名の選手にそれぞれライフライン(実力発揮度曲線)をもちいて質問形式などをもちいて紹介いただき、選手・運動者・指導に役立つ知見を探求しました。参加者は高校生、大学生、指導者、高校クラブ顧問、分科会会員を含めた30名でした。以下、研究会の報告を一部紹介します。


1.武道における国際競技力の向上と心技体

 東京2020大会を控え、オリンピック、パラリンピック種目はもとより、わが国の様々な競技種目において国際競技力の向上が顕著である。特に、ナショナルトレーニングセンターの設置に見られるような強化拠点の整備や、国立スポーツ科学センターによるスポーツ医・科学研究ならびにサポートの充実がその要因として挙げられる。

 これらの成果は日本オリンピック委員会や日本スポーツ協会等の統括組織により、競技横断的に利活用されており、柔道、空手道、剣道、そしてなぎなたにも波及している。たとえば筆者は、剣道やなぎなたの世界大会に向けた日本代表選手の強化において、心理サポートを行ったり、スポーツ医・科学の利活用を促したりしてきた(例えば土屋,2014)。日本発祥の独自の運動文化である武道においても、国際競技力の向上に向けたスポーツ医・科学活用の取り組みが始まっている。

 国際競技力の向上、とりわけ世界大会での実力発揮のために、現在様々な競技において「心技体」の重要性が説かれている。大きな大会での実力発揮のためには、体力、技術と同様に心理も充実している必要があるという考え方である。

本来この言葉は、嘉納治五郎が柔道の目的として説いた「身体の発育」「勝負術の鍛錬」「精神の修養」を踏まえ、道上伯がフランスで正しい柔道を伝えるために用いた用語とされており、武道の特徴を色濃く反映したものである。なぎなた世界大会に臨むにあたり、様々な競技におけるスポーツ医・科学の知見をうまく利活用するためには、単に他競技の成功事例をそのまま適用するだけでなく、「心技体」に代表されるような、日本がこれまで大切にしてきた武道の精神をよく理解しておく必要がある。

同時に、世界における武道の位置づけについても注意深く観察し、普及発展のあり方についても思いを巡らせておく必要がある。「勝てばよい」というものでないことは、武道に携わる者であればだれでもが理解していることである。卓越を追求する過程で、自身のありようをどのように高められるかが問われている。


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4.武道とコーチング

 今回紹介した3名の日本代表選手は、偶然にも大阪体育大学なぎなた部出身者であり、いずれも学生時代全日本学生なぎなた選手権大会(インカレ)において個人優勝の経験がある実力者であった。実力発揮度曲線を見ると、同じ団体戦に臨むチームメンバーとして切磋琢磨しつつも、知己の関係にあったことから、時に助け合いながらチーム力を高めていったことにも関係していると思われる。また3名とも現在教員をしており、選手であると同時になぎなたを指導普及する立場にいることも共通点として挙げられ、それが責任感につながったと考えられる。

2012年、大阪市立高校でバスケットボール部員が顧問の体罰に悩んで自殺した事案に端を発した我が国のコーチング改革では、新しい時代にふさわしいスポーツ指導者の資質能力を問い直す動き(タスクフォース)へと発展し(文部科学省,2013)、モデルコアカリキュラム(MCC)の開発に結び付いた(日本スポーツ協会,2017)。筆者はMCC作成ワーキングの座長として、本稿で紹介した武道の精神がうまく生かされた指導者育成プログラムができないものかと考えていた。出来上がったMCCでは、選手(学び手)の主体性を尊重しつつ、指導者自らも自身の課題に向き合いながら学び続けることの重要性が強調されている。国際コーチングエクセレンス協議会の唱えるプレイヤーズ・センタードなコーチングという世界基準を満たしつつ(土屋,2016)、指導普及に携わる指導者自らも学び続けるべきであるとする、武道の精神が生かされている。

今後MCCに準拠したプログラムは、日本スポーツ協会はじめ各競技団体における指導者育成の中核になると期待されている。なぎなたをはじめ武道の精神が新しい時代にふさわしいコーチングのあり方を支えるには、我々武道に携わる者こそが、国際化のなかにありながらも武道が大切にしてきた精神を問い直し、学び続けていかなければならない。



 

*本研究会の詳細はメールにて連絡ください。


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